「100年後に恥をかきたくない。だから私は、今この2人を評価する」

彫刻家 前原冬樹×鍛金作家 本郷真也×美術商 鐘ヶ江英夫 鼎談

京都大徳院総門の正面に、「時代を超える力を持った作品」を揃える店がある。古美術商「鐘ヶ江」だ。
店主・鐘ヶ江英夫さんが厳選した作品の中でも異彩を放つ、彫刻家の前原冬樹さんと鍛金作家の本郷真也さんの作品。鐘ヶ江さんは「この2人を評価しない現代人は後々恥ずかしい思いをすることになる」とリスペクトする。「作家としての個性と作品の普遍性」、そして激動の2022年に「戦争と芸術」をテーマに、
鐘ヶ江さん、本郷さん、前原さんに話を伺った。

前原 冬樹

プロボクサー、サラリーマンを経験した後32歳で東京藝術大学油画科に入学。卒業制作は半立体ともいうべき作品だったが、その後は木彫に転じ以後、驚異的な一木造りの作品を発表してきた。

本郷 真也

1984年、千葉県生まれ。東京芸術大学大学院 美術研究科鍛金専攻修了。現在は千葉県野田市のアトリエにて鍛金作家として活動中。第55回現代工芸美術展 現代工芸賞など多数受賞。

鐘ヶ江 英夫

京都造形芸術大 環境デザイン科を卒業後、実家の美術商「古美術鐘ヶ江」を継ぐ。日本の美術工芸を独自のデザイン思考で再構築を試みている。

 

 

 

完璧な技術で不完全なる存在を生み出す

 

—『古美術鐘ヶ江』では、「仕事の良さ、面白さ」を基準として、取り扱う品を決めているということですが、前原さん、本郷さんの作品にもやはりその視点で惹かれたのでしょうか?

 

鐘ヶ江)そうですね。古美術商として、年間数十万点もの作品を見てきて、100年後も残ると確信を持ったのが前原さんと本郷さんの作品です。前原さんは大学生の頃からファンでした。渋谷文化村での個展で初めてお会いして、明治美術の超絶技巧を扱っていた父親と、「凄いことをしている人がいる」と話をしたことを覚えています。本郷さんは、自在置物作家の満田晴穂さんからの紹介で初めて個展に伺い、それはもう宝の山でしたね。

出会いは、どちらも衝撃的でした。共通しているのは、偽物が存在しない、できないということ。
この2人の作品の偽物を作れるほどの腕を持つ贋作家がいたら手放しで称賛しますよ。また、完璧な技術で不完全なものを作っているところも2人の似た点かもしれないですね。

 

本郷)完全なものを作ろうとするけど、意図しない変化をしていくことが僕にとって魅力なんです。
鉄は錆びていく。人間の力ではその錆はどうすることもできない。鉄は人間の無力感や弱さの象徴である気がして、好きですね。


前原)俺にとって鉄は強さの象徴だけどね。ただ、朽ちていく姿を見るのは好きです。形あるものは例外なく全て朽ち落ちて無くなるという運命を感じる。散り際の美学みたいなものが好きで、その潔さに妙な魅力を感じます。

 

《一刻》刀
素材:朴、桜(台座)、墨、油彩
95.5×9.5×8(cm)※日本刀のみ

 

 

社会と断絶することでつながる、時代感覚を持ってつながる

 

—鐘ヶ江さんは、個性的な2人の作家をプロデュースするうえで、心がけていることを教えてください。

 

鐘ヶ江)個性的な2人が生み出す作品をどう魅力的に見せるかが、腕の見せ所ですから、照明ひとつとってもこだわる点は多々あります。今の美術館での展示に僕は納得していないので、美術館ができないやり方で「作品の魅力を最大限にいかす展示」をしようと思っています。

前原さんは技術が素晴らしいのは言うまでもありませんが、独特なキャラクターも魅力的。
プロボクサーから転じて32歳で東京藝大に入学し、首席で卒業した後、専門の油絵から木彫の世界に転じたなんて作家はいません。逆説的ですが、全てが異色な前原さんの場合は、世間とつながらないことが世間とつながる手段なんです。「こういう人が今の時代でもいるんだよ」と社会に伝えることで、前原さんの作品は社会とつながっていくんです。

 

1989年8月29日後楽園ホールで後の日本王者で世界戦を2度戦った松本弘司(ヨネクラ)との試合

 

一方、本郷さんは時代の観念を持って社会とつながるタイプ。作品作りのモチベーションに今の時代への思いなどが強く込められています。

本郷)確かに世の中への怒りがモチベーションになることは多いですね。納得できないことばかりなんですよ。いろいろな問題を何かで覆い隠そうとしていることへの怒りや絶望がある。無意識に時代を分析しているところもあるかもしれません。

 

独歩
素材:鉄
110×60×60cm
撮影:Tadayuki Minamoto

 

前原)このあたりの青臭さは作品作りには大事ですよ。「大人なんだからそんな考えじゃ駄目だよ」と言う人もいるけど、ガキみたいなことをいい歳して言えないと全てが小慣れてつまらなくなってしまう。

鐘ヶ江)2人とも1つのことに物凄い集中力を発揮して、それ以外のことはどうでもいいというタイプなのですが、こういう一芸に秀でている人をマネジメントするのは面白いです。なんだか自分の存在価値を認められている気がするんですよね。

 

 

100年後に残る作品が備えるべきもの

 

—鐘ヶ江さんは2人の作品を見たときに「100年後も残る」という確信を持ったということですが、
100年後に残る作品には何が必要だと思われますか?

 

前原)単純な話で、良いものが残るだけなんです。ど素人が見ても分かる「物の力」というものがある。
美術品を収集していた父親が亡くなったとして、何も詳しくない子どもに、「これは捨てないでおこう」と感じさせるのが物の力です。だから僕は作家が自分の作品を語ることには納得ができません。言語を介さないと伝わらない作品を作るなんて恥知らずだと思う。漫才師が、「今のはここが面白いんです」とオチを説明するなんてあり得ないことですよ。


本郷)確かに語りすぎるとうるさいですね。もうひとつ言えば、技術から生まれてくる造形もあるので、
やはり全ての基礎となる技術も大事だと思います。表現したいものに対して技術で制限がかかるのは不本意ですから。

 

Visible01
素材:鉄、銀
W96×D91×H170cm
撮影:Tadayuki Minamoto

 

肉眼では見えない内部の骨格まで制作している。
CTスキャンを行い、内部の骨格をデジタル上で表現した。
遠い先、表面の鉄が朽ちゆく時、未来人は内部の骨格や隠されたメッセージを肉眼でも確認できる。

 

前原)自己満足の極致を追求する姿勢も必要です。それが見る人の心を動かす動機になると思うので。
「これをやったらお客様が喜ぶでしょう?」というショーではなく、ひたむきに頑張る本気や熱量が、
観る人の自己体験とリンクしたときに「刺さる作品」になります。俺は未だに自分が満足できる作品を作れたことがない。だからいつか自分を満足させることができる作家になりたいと思いながら制作している。

 

記事全文はTHE RACE Vol.1にてご覧ください