JASDAQに最年少で上場した「paperboy&co.(現GMOペパボ)」、クラウドファンディング「CAMPFIRE」などの創業者として知られる日本有数のシリアルアントレプレナー(連続起業家)家入一真さん。2004年「イラク人質事件」の当事者として戦場から生還後、バッシングにさらされ対人恐怖症でひきこもった経験をもつ今井紀明さん。彼は今、孤立する子どもたちの自立を支援するキャリア支援を行うNPO法人D×Pを率い、貧困家庭への支援に奔走している。今回は既存のシステムからこぼれ落ちる人々が後をたたない日本社会で、民間レベルのセーフティーネット構築を目指す二人が、「100年後の人類への問い」「後世に遺したい知られざる偉人」、そして、彼らの現在地点と未来に遺したいものへの想いを語った。
家入一真
1978年福岡県出身。JASDAQ上場企業「paperboy&co.(現GMOペパボ)」創業社長。クラウドファンディング「CAMPFIRE」代表取締役CEO。スマートEC「BASE」共同創業取締役。株式会社キメラ代表取締役CEO。カフェプロデュース・運営「partycompany Inc.」代表取締役。スタートアップベンチャー投資「partyfactory Inc.」代表取締役。モノづくり集団「Liverty」代表。シェアハウス「リバ邸」をはじめ、リアルやネットを問わず、カフェやウェブサービスなど人の集まる場を創っている。50社程のスタートアップ・ベンチャー投資も行う。2018年6月、シードラウンド向けベンチャーキャピタル「NOW」設立。
今井紀明
1985年札幌生まれ。高校生時代にイラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立し、紛争地域だったイラクへ渡航。現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと、日本社会から大きなバッシングを受ける。対人恐怖症になるも、大学進学後、友人らに支えられ復帰。その後、通信制高校の生徒が抱える課題に出会い、任意団体Dream Possibilityを設立。大阪の専門商社勤務を経て、2012年にNPO法人D×Pを設立。通信制高校の高校生向けのキャリア教育事業を関西で展開している。
—まずは、100年後の人類に自己紹介をお願いします。
今井:そんな問いかけ初めてです(笑)。では、僕から。今井紀明。子どもたちが希望を持てない時代に、彼らの孤立を解決している起業家です。アジアを中心に「否定せずに関わる」という姿勢で支援するNPO法人D×Pを運営しています。
家入:家入一真です。僕は「誰もが声をあげられる世界」をつくるというコンセプトで20年ほどさまざまな事業を立ち上げてきました。その根っこにはすべて「居場所づくり」という考え方があります。インターネットの黎明期、個人が自己表現できるテクノロジーの可能性に気付き、声をあげられない人たちが表現したり交流したり、個人が力を持てる世界を作ろうと、最初の会社「paperboy&co.(現GMOペパボ)」を設立しました。シェアハウス「リバ邸」もクラウドファンディング「CAMPFIRE」も、誰もが居場所をつくれる仕組みづくりという意味で、その延長線上にあります。
—お二人の出会いについて聞かせてください。
今井:地域でそれぞれ居場所づくりをしている起業家が集まる京都のイベントでのパネルディスカッションが初めてでしたよね。
家入:確か「新しい公共をつくる」という文脈でしたよね。私は、今井さんと初めてお会いして、
「この人がイラクで拉致された3人のうちの1人なんだ」とすごい感動していました。帰国後もバッシングで大変な思いをされたという話も含め、もっと話を聞きたい、仲良くなりたいなって。
今井:でもその時、家入さんは飲んだくれてから来ていたので、セッション開始後2時間でトイレに立って、そのままフェードアウト(笑)。会場も満席でめっちゃいっぱい来てくれていた中、登壇者一同、
「あれ、帰ってこないなぁ」みたいな中で進行していましたね。僕の中では立ち去る人でした(笑)
家入:実はあの時、トイレで買ったばかりのiPhoneの画面をバリバリに壊してしまいひどく辛い気持ちになってしまって…。これじゃもう一言もしゃべれないと思い、ひとり鴨川に黄昏に行ったっていう(笑)。
今井:引きこもり仲間だからね。僕もずっと興味があったから。それからなんかの機会で再会して、
よく一緒に飲む仲になったのかな。
―100年後の人たちにお互いを紹介するとしたら?
今井:ちょっと紹介しづらいですね。家入さんって、将来どうなりたいとかあるんですか?そもそも。
なさそうだけど。
家入:いい質問ですねー。うーん、なんかねぇ。
今井:銅像とか立ってそう。
家入:ないでしょ(笑)。これは、20代前半からずっと想像していることだけど、自分の最期って、
ぼろアパートで人知れず死ぬみたいなイメージがあって。孤独死に憧れているのかもしれない。
今井:なんで?自分も共通するものがあるからちょっと聞きたい。嫌なんですけど、自分もあるんですよ。家入さんと一緒なの嫌だな(笑)。
家入:なんでよ。
今井:なんでだろうな? 孤独を求めがちになる。自分の死に際を考えたときに、誰かに看取られるというよりは、山でトレイルランをしている途中に滑落して独りで冷たくなっていくイメージがあったから。
山の中で自然に死にたいという。だから、お互い最期は孤独って部分は似ているのかも。なんでだろうね。
―二人とも一人旅は好きですか?
家入:好きですね。
今井:一人旅のほうが自分一人の時間が長くて、いろんなことを思う。これまでの自分も振り返ることができる。孤独な時間ってネガティブだけじゃない。
家入:そうなんですよ。これまでいろいろ事業を立ち上げてきて、メンバーが引き継いで会社が大きくなって、たまに遊びに行くと受け入れてくれる。「ここが居場所だったんだな」って感覚もあるし、そこから生まれたサービスも自分の子どもみたいな感じ。
ただ、「自分を遺したい」みたいなのはないよね。活動していてコミュニティができてくると、「居心地がいい」のが居心地悪くなってきて、自分から出ていってしまう感じがあるんですよ。自分が作った箱の中にいて、「居心地よくなってていいのか、俺?」みたいな。勝手に孤独を感じてる。そこにいる彼らがどうかじゃなくて。なんでだろうね。
今井:僕も今はまだD×Pから離れたい気持ちはないけど、一歩引いて見ているようなところはある。
自分の箱から急に離れたくなる。ムズムズするって感覚、すごいわかるんですけど。そこに居続けていたらダメになっちゃう感覚ってありますよね。
―自分自身の何かを遺すのではなく、自分が生み出した居場所や仕組みによって後世に何を遺すか?
今井:今、僕はたまたまNPOの代表をしているわけですけど、「社会に対して何ができるか」ってとこは、10代の頃からずっと変わっていないんです。「後世に何を遺すか」ってことで生きてるんで。
イラクの事件で生き残った後も、死と隣り合わせの時期を経て、今は「できれば長く生きて22世紀まで見てみたい」っていう生への執着もあります。でも、30代中盤になって娘ができたこともあると思うんですけど、死に対する恐怖がなくなってきたんですよ。
自分は遺らなくとも、関わってきた子どもたちが単純にちゃんと生きていってほしいし、自治組織や会社を作ったり、社会に対して声をあげたりしていてほしい。
国境なき医師団のように何世代にもわたりグローバルに展開しているように、「否定せずに関わる」っていうD×Pの思想的な部分も、ちゃんと引き継げたら自分はまた別の何かを見つけてそれをやる。そうして
年老いても活動を続けて、その活動を誰かが後世に伝えていってくれるといいなと思います。
—お二人の共通点は、「社会の既存の制度やセーフティーネットからこぼれ落ちてしまった人々を救いたい」という想いがありますよね。
家入:活動の原点には、自分自身の原体験があります。中2の頃のいじめをきっかけに引きこもって以来、ほぼ家から出られない20代を過ごしました。家も貧しく、家庭内でもいろいろあって、絵の学校に行きたいという夢も叶えられず就職したものの、やっぱりいきなり働くのは無理で、クビになり続けて。
それで自分で稼ぐしかないと起業したのが、最初の会社です。
今井:家入さんの「リバ邸」にはいろんな人が集まってきて、どんどん広がっていきましたね。そこで出会って一緒に起業する人も出てきたりして。
家入:学校か家、会社か家、みたいな選択肢しかない世界だと、どうしても行き場所がなくなってしまう。第三の場所があれば、置かれた状況を共有したりつながったりして、一歩踏み出せるきっかけになるんじゃないかと思って。クラウドファンディング「CAMPFIRE」も、テクノロジーの浸透で可能になった民主化された金融、支え合いで成り立つ仕組みを通して、既存の金融システムからこぼれ落ちた人たちが声をあげられる世界を目指すものです。
今井:コロナの長期化で深刻さが増した社会で、国や社会の既存の仕組みは一層機能しにくくなってますよね。ここ2年で、うちのNPOだけでも食糧支援や現金給付で累計400万円近い支援をしていますが、相談に来る15~25歳の子たちの約6割が深刻な借金問題を抱えています。共通するのは、親に頼れないということ。日本では当面、政府が若者に資源投下するような変化は訪れないだろうから、民間から一人ひとりの力で変えていくしかない。それを体現するのがNPOだと思っています。
家入:その辺りの課題感は僕も全く同じで。国家という仕組みは、今後もっと機能不全になっていくと思います。そんな中、教育もそうですけど、セーフティーネットからこぼれ落ちる人がどんどん出てくるわけじゃないですか。そうしたときに、国しかできないことがある一方で、民間でできることを少しでもやる。その一歩が、100年後の未来を全然違うものにすると思う。今井さんは今井さんの領域で、僕は僕の領域でそれをやっていて、お互い交差する部分がありますよね。
—100年後の未来は、どんな世の中になっているでしょうか?
家入:2122年か。どうなるんだろうね。いずれにせよ、国っていう境界がどんどん溶けてなくなっていくのかも。そもそも資本主義も100年後どうなっているか。「国」の概念だって、100年後の人に「国どうなってる?」って聞いたら、「国だってさ(笑)」って笑われるかも。「地球」って感じかもしれないよね。
—「家族」というかたちは残ると思いますか?
今井:むしろ、変わらないと生きていけない社会になっていくかも。僕自身も、今の妻と結婚する前に、
妻の娘たちから「一緒に住もう!」って言われたことを機に結婚してステップファザーになったんですが、こういう形の家族は増えるだろうと思います。
支援の現場でも、SNSで出会った人の家で一緒に住むみたいなパターンも普通にあります。いろんな同居のかたちも出てきていて、人がまとまって生きる生き方はもっと多様化していくでしょうね。
家入:確かに。家族に限らず、つながりの部分でもっとイノベーションが起きるだろうね。テクノロジーの進化がコミュニケーションを大きく変えてきた部分もあるし。人類学者の梅沢忠雄が書いた「情報の文明学」って本があるんですけど、その中で彼は、人類の革命を細胞の変化になぞらえて説明しています。
細胞分裂が始まってすぐの段階、消化器系が発達する段階は農業革命で、その後、筋肉や骨が発達する段階は工業革命。最後には神経系や脳が発達していくから、「これからの時代、情報の革命が起きる」と言い当てた。
新幹線がようやく登場した頃だったんだけど、彼によると、「情報を持っている人間が大阪・東京間を移動できる新幹線は、移動の革命じゃない。情報の革命だ」と。でもその本には、細胞が最終的に個体になったときのことは書いていない。じゃあそれは何か?って考えると…。